「港区伝わる日本語シンポジウム」に参加してきました。
皆さん、こんにちは!
日本語パートナーの千原です。
外国人と日本人の架け橋となるよう「”外国人向け”日本語レッスン」や「”日本人向け”やさしい日本語」の普及事業などを、埼玉県戸田市を中心に行っています。
2024年3月19日開催の「港区伝わる日本語シンポジウム」に参加してきました。

目次
シンポジウムについて
日時:令和6年3月19日(火曜) 午後1時~4時30分
場所:港区立高輪区民センター 区民ホール
主なプログラムと登壇者:
・基調講演(「伝わる」だけで大丈夫? 伝えることの前と後に配慮すべきこと)
宇佐美 洋 氏(東京大学大学院 総合文化研究科 教授)
・伝わる日本語に関する共同研究の成果報告
太田 陽子 氏(一橋大学 国際教育交流センター 教授)
栁田 直美 氏(早稲田大学大学院 日本語教育研究科 教授)
岩田 一成 氏(聖心女子大学 現代教養学部 教授)
・港区伝わる日本語行動指針の紹介
港区総務部伝わる日本語推進担当課長
・区民との意見交換(区民から見た「港区伝わる日本語行動指針」)
・パネルディスカッション(港区の情報発信はどのようであるべきか)
シンポジウムの目的:
港区が行う「伝わる日本語」の取組を、区民、企業、団体等へ浸透させるとともに、他の地方公共団体へ広く発信することを目的に、シンポジウムを開催します。
港区伝わる日本語シンポジウム 案内文より
港区のHPによる紹介はこちら
去年に引き続き2回目の開催のようです。
1回目の開催のダイジェスト動画がyoutubeで公開されていました!
港区が「伝わる日本語」に取り組みはじめた経緯
港区には26万人の人口がいて、そのうちの8%が外国人だそうです。
私が住む埼玉県戸田市は14万人の人口で、そのうち約7500人が外国人、割合は5.3%です。
港区の特徴としては130もの国籍の方々が住んでいるということです。
まさに多文化共生ですね。
そういう経緯で、やさしい日本語への取り組みが始まり、さらに外国人だけではなく、すべての市民に公文書や公的お知らせを分かりやすく伝える必要を感じ令和4年(2022年)に「伝わる日本語推進担当」課を作りました。
「やさしい日本語」研究の第一人者である庵 功雄先生(一橋大学教授)とともに研究を進めているとのことです。

区役所からのお知らせは非常に難解で、読む気すら起きないというものもありますね。
また、細かい「例外」情報などがあり、結局どうすればいいんだ?と分からなかったり…。
それを区役所の職員から意識を変えて、「伝わる日本語」に変えていく取り組みをされています。
港区の取り組み
港区のこれまでとこれからの取り組みについて、勝手に補足をつけながら、説明します。
- 「伝わる日本語」の推進
「やさしい日本語」というのは日本語を外国人が分かるように平易に変えた日本語のことです。
例:こちらにご記入ください。→ここに(名前や住所を)書いてください。
港区の「伝わる日本語」とは、難解な公文書をだれでも分かるように書き換えた文書のことです。
例えば、同じフォントで羅列するように書かれた文字だらけの行政文書に大きいフォントでタイトルを入れたり、条件を分かりやすく図式化したりした日本語だけでなく、デザインや情報の整理の仕方に工夫をし、文書全体を分かりやすくしたものです。 - 行政の仕事に対する評価基準の見直し
行政が発信した情報が住民に十分に伝わっているかどうかが行政の仕事として高評価につながる - 区の職員が「プレインジャパニーズ」による発信の方策を身につける
資料にはプレインジャパニーズと書かれていましたが、「伝わる日本語」と同じものを指していると思います。 - 港区伝わる日本語行動指針の策定
次の項目で詳しく説明します。
港区伝わる日本語行動指針とは?

港区では「伝わる日本語行動指針」というものを策定しました。
全文はこちら。
行政が単に「情報を伝達する」ということではなく、情報を受け取る相手の立場に立ち、「表現の配慮や工夫」を行ったうえで伝えることの重要性が書かれています。
・何のために誰に何を伝えたいのか
・情報発信のタイミングとツールの選択は適切か
・情報に関心を持ち、手にしてもらうための工夫をしているか
・情報が伝わるための表現の工夫をしているか
具体的に以上のことを意識されています。
職員向けの行動指針ですが、公式に発表することで、区民へも理解・協力を促しているとのことでした。
全ての自治体がこれを意識してくれたら、市民は暮らしやすくなると思いました。
共同研究について
先の庵先生や岩田一成先生(聖心女子大学教授)を中心に「受け手に合わせた分かりやすく親しみやすい行政文書の作成に向けた共同研究」についても報告がありました。
研究報告書がWebで公開されています。
簡単に以下に概要を書きます。
(1)区職員による文書改善プロジェクト
岩田先生は「やさしい日本語で伝わる! 公務員のための外国人対応」という本を書かれています。
各課から集まった区職員がさまざまな「書き換え」プロジェクトを行っているという報告がありました。
初年度では若手のみで行っていましたが、書き換えた文書を決裁する上長が「伝わる日本語」「やさしい日本語」への理解がないと、元の文書に戻ってしまうという気づきがあり、次年度は管理職へも研修を行い、部署の数名が一緒に書き換えに取り組むことで大幅に改善されたようです。

課長!分かりやすく書き換えました~。

なんじゃこりゃ~!公文書らしくない!やり直し!
※私の主観的なイメージです。
実際に書き換えたお知らせのBefore・Afterが紹介されていました。
書き換えた内容の文書がすでに使われているかどうかは分かりませんでした。
Afterのほうはデザインも見やすく、内容が分かりやすくなっていました。
「やさしい日本語」の研修だけでなく、港区内の事業者に依頼して、「デザイン研修」「プレゼン研修」「コミュニケーション研修」も行ったそうです。
様々な事業者がいることは港区の強みですよね。
岩田先生は研修の際に「情報を整理・整頓し、どう並び替えるか」ということを職員全員に伝え、理解してもらうことが難しいとおっしゃっていました。
日本語だけの研修にとどまらず、デザインや心理なども学ぶことで、理解が進むのではと私は感じました。
(2)町会・自治会に対するインタビュー調査
つぎに書き換えた文書に関して、町会・自治会に対するインタビュー調査を行ったそうです。
いくら行政が頑張っても、市民が理解していないと「伝わる日本語」を意識して書いたお知らせは浸透しないということです。
どのように変えてみたか、一部引用します。
文書Aが書き換え前、文書Bが書き換え後です。

↓

市民はこれをどう見るかインタビュー調査による研究が行われました。
文書AとBを比べて、「分かりやすさ」「読みやすさ」「読みたいと思うかどうか」などどちらが好ましいかという質問にはすべての項目で文書Bが選ばれたそうです。
一方で「かもしれません」などの表記が「公文書らしくない」という意見もあったそうです。
また、今までの文書と異なりすぎていて、本当に区からのお知らせなのか?詐欺ではないか?と疑ってしまうという声も寄せられたとのこと。
文書AとBの詳しい内容は研究報告書にありますが、かなり情報をカットしています。
この制度の対象になるかは「まずはご連絡ください」と記載されています。
最初のお知らせ文書が1次情報、問い合わせをし2次情報を得るという構造になっています。
さらにQRコードなどをつければ、信頼性も増すし、コールセンターの業務も減らせると感じました。
従来の行政文書と分かりやすさを意識して書かれた行政文書では市民の行動がどう変わったのかの研究もあるといいなと思いました。(あるのかな?)
分かりやすく書かれた行政文書を配布したら申し込み者が増えたなどの数値で行動が表せれば、納得感が大きいですね。
やさしい日本語・伝わる日本語
港区の取り組みで重要なのが「やさしい日本語」にしているわけではなく「伝わる日本語」にしている点です。
「伝わる日本語」のために表現の仕方を工夫したり、文字の配置やデザインを変えてみたりしています。
「やさしい日本語」というのはやはり講習を受けないと、コツがよくわからないと思います。
また、ふりがながついていたり、分かち書きがされていたりして、日本人にとっては読みづらい場合もあり、逆に読まない可能性があります。
まずは文書そのものをだれでもすぐにわかるように書き換えるという取り組みを行っているのです。
わかりやすい文書があれば、それを日本語教育の専門家などが、外国人向けにやさしい日本語に書き換えるのは大変スムーズになります。
あとがき
3時間半のシンポジウムでしたが具体的な取り組みが紹介されていてたいへん興味深かったです。
研究者も交えた具体的かつ先進的な取り組みをぜひほかの自治体に広めていってほしいです。
港区総務部伝わる日本語推進担当課長さんのお話によると、港区の動きがほかの自治体に波及することを望んでいるとのことでした!
歩みを止めず、積極的に広めていきたい、連絡をくれれば出向いてでも取り組みを紹介したいということでしたので、興味のある自治体の関係者さんはぜひ伝わる日本語推進担当課長さんに連絡をしてみてほしいです!